

梅澤 俊明
この度、リグニン学会初代会長を拝命いたしました梅澤でございます。60余年の歴史と伝統を持つリグニン討論会を引き継いだ本会の初代会長を拝命致しますことは、真に光栄なことでありますが、その使命と重責を担うことに身の引き締まる思いです。
福島和彦、山田竜彦、宮西孝則の三副会長をはじめ、理事、評議員、そして会員皆様のお力添えをいただきながら、諸先輩の築いてこられたリグニン研究の一層の発展に尽力して参る所存です。
当学会の設立にあたりまして、その経緯と趣旨につきまして少し述べさせていただきます。当学会は、リグニン討論会を発展的に組織化したものであります。同討論会の第1回は、八浜義和先生(大阪大学)らが発起人となり1956年にリグニン化学討論会として大阪府立教育会館にて開催されました。引き続き同討論会は、リグニン研究に携わるわが国の研究者が輪番で世話人を務めることにより、年ごとに運営開催されて参りました。その後、化学分野のみならずリグニンに関わる諸分野を広く包含するという趣旨の下、第29回(1989年)討論会において名称をリグニン討論会に変更し、本年(2018年)の第63回まで回を重ねて参りました。このリグニン(化学)討論会は、真摯かつ活発な討論を最大の特徴とし、リグニンの学術及び科学技術の進展に寄与して参りました。しかし、昨今のバイオマスをめぐる様々な社会情勢の大きな変動に対応するためには、分野横断的なより強固な組織を確立することが必要となって参りました。加えて、ボランティアとしての世話人が運営するという従来の討論会体制では情報発信などに対する責任が不明確であるという課題が強く認識されるに至りました。
以上に鑑み、過去数年にわたりリグニン討論会の幹事会などにおいて、同討論会の学会組織化に関する討議を重ね、昨年(2017年)の第62回リグニン討論会における幹事会にて、リグニン討論会のリグニン学会への発展的組織化につき衆議一決いたしました。その後、1年間の準備期間を経て、本年の第63回リグニン討論会にてリグニン学会の設立総会を開催し、同日(2018年11月1日)を以てリグニン学会の設立に至りました。
リグニンは、維管束植物の必須成分としてその生育と世代交代を支える重要な芳香族高分子であります。生命科学や情報科学などの関連分野の長足の進展と相まって維管束植物におけるリグニンの種々の精緻な生理機能が近年次々と明らかにされるなど、リグニンの生理機能解析もまさに新時代を迎えております。さらに、リグニンはセルロースやヘミセルロースと共にリグノセルロースとして維管束植物の二次細胞壁の主体を成しており、地上で最多量蓄積している芳香族資源であります。そしてリグニンは、様々な機能性材料の素材として展開可能な多くのポテンシャルを有しております。セルロースやヘミセルロースなど、リグノセルロース中の多糖成分の利用については既に社会実装の長い歴史がある一方で、リグニンの高付加価値利用は大規模社会実装に至っておらず、リグニンの持続的生産と利用に関する本格的な社会実装を達成するためには、関連する課題を学術的に解決することが必要不可欠です。
当学会では、リグニン及び関連化合物の生成機構、生理機能、化学構造、反応性、分解性、利用特性など、関連分野で進められている個々の研究成果を集約し、さらに新規情報を関連分野全般に発信することを目指しております。そして、リグニンの科学・技術に関する未解決の課題に組織的に対処したいと考えております。昨今、持続可能な開発或いは再生可能資源エネルギーの利用に関する必要性が益々高まっており、科学技術イノベーションに基づく持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)の達成或いはバイオエコノミーの概念に基づく経済活動が世界の基軸になりつつあります。リグニン及び関連化合物に関わる科学技術の知見を集約・発信することは、まさにこれらの潮流の推進に必須であると考えております。
当学会では、従来のリグニン討論会の良き伝統・特徴を引き継ぎ、「リグニン討論会」を学会の年会として継続開催して参ります。そして、国際的であることがすでに一般的であることに鑑み、2019年開催の第64回リグニン討論会(第1回リグニン学会年会)は、国際会議(1st International Lignin Symposium)として開催します。また、学会誌を刊行し、一般論文や総説を掲載します。総説の内容としては、リグニン及び関連化合物に係る様々な最新情報の解説や基礎講座なども盛り込む予定です。さらに、当学会ではリグニンの分析方法などの技術講習会も開催し、情報の集約と発信に努めます。
微力ではございますが、先輩諸兄が築いてこられたリグニン討論会の伝統をさらに発展させていくために、全力を尽くす所存です。会員皆様方のご支援ならびにご鞭撻を承りますよう心よりお願い申し上げます。
